第三章

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「……ホント、世話のかかるガキだな。」 泣いたらすっきりしたのか、すうすうと寝息を起てる慎介にふっと微笑む。 これ以上は関わってはいけないんだと頭では分かっているのに、俺の手は未だに慎介の頭を撫で続けている。 他人と距離を取るために引いた、自分と相手を守るための境界線。 越えてはならない線を、慎介はいともたやすく越えてしまった。 ……これ以上、慎介を侵入させてはいけない。 俺の心に、これ以上侵入させてはいけないんだ。 『あんたがいなければ―――!!』 瞼を閉じれば、今でも鮮明に蘇る懐かしい声。 脳裏に映るのは、赤い赤い雫。 「これ以上は、ダメだ。」 ヒトを受け入れる権利も、ヒトに受け入れられる権利も 俺は持っていないのだから。 ポケットに突っ込んである携帯電話を取り出して、滝ケ崎にメールを打つ。 それから数十分経てば、遠くから小さな影が走ってくるのが見えた。 それを合図に、そっと手の平を慎介の髪から離す。 「……さよならだ、慎介。」 次に会う時は、俺達はまたいつもどおり。 変わることは望まない。 変えることも望まない。 そうでもしなきゃ、脆い俺の世界はあっという間に崩れちまうから。 ――俺は、今が幸せならそれでいいんだ。
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