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「……ホント、世話のかかるガキだな。」
泣いたらすっきりしたのか、すうすうと寝息を起てる慎介にふっと微笑む。
これ以上は関わってはいけないんだと頭では分かっているのに、俺の手は未だに慎介の頭を撫で続けている。
他人と距離を取るために引いた、自分と相手を守るための境界線。
越えてはならない線を、慎介はいともたやすく越えてしまった。
……これ以上、慎介を侵入させてはいけない。
俺の心に、これ以上侵入させてはいけないんだ。
『あんたがいなければ―――!!』
瞼を閉じれば、今でも鮮明に蘇る懐かしい声。
脳裏に映るのは、赤い赤い雫。
「これ以上は、ダメだ。」
ヒトを受け入れる権利も、ヒトに受け入れられる権利も
俺は持っていないのだから。
ポケットに突っ込んである携帯電話を取り出して、滝ケ崎にメールを打つ。
それから数十分経てば、遠くから小さな影が走ってくるのが見えた。
それを合図に、そっと手の平を慎介の髪から離す。
「……さよならだ、慎介。」
次に会う時は、俺達はまたいつもどおり。
変わることは望まない。
変えることも望まない。
そうでもしなきゃ、脆い俺の世界はあっという間に崩れちまうから。
――俺は、今が幸せならそれでいいんだ。
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