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「新しい父さんが来たのは十歳の時でさ、良い人っぽかったよ。だけど、さ。撫でようとしてくれたその人の手を振り払っちゃったんだよ。反抗期……ていうか、反抗なんてしたことなかったのに、そこだけは譲れなかった」
「じゃあ、静とはその時に?」
「うん。バツイチ同士、気があったみたい。だけど、俺だけ馴染めなかった。まるで三人家族みたいな感じだったよ。俺は遊びに来た友達、みたいなさ。父さんも母親も気ぃ使いまくってて、俺も違和感が有ったし、それでもいいかって思ってた」
その頃には苛めも収まり、そこそこには友人も出来ていた。
学校に行くのが苦痛じゃなくなった代わりに、俺は家での場所を失った。
友達の家に入り浸り、夜遅くに家に帰る。ちょっとした不良少年だった。
「だけどさ。静は、ずっと俺の後付いてきてたんだ。そのせいで友達と遊べなくなった時も有ったし、滅多に怒らない父さんに怒られた事もあった。それで、ある日聞いたんだ。なんで付いてくんだよ、って」
その事も、今でも思いだせる。
――お兄ちゃんお兄ちゃん。あのね、今日ね!
――あぁ、もう! うざい! 何でそんなにくっついてくんだよ!
「――家族だから。お父さん言ってた。お兄ちゃんが出来たら、一杯我儘を言いなさい。お兄ちゃんはきっと、面倒くさがるだろうけど、それでもお前の助けになってくれるって。
普通にさ、そう言ったんだよあいつ。それ聞いて思い出した……ていうより、忘れようとしてた親父の遺言思い出してさ。あぁ、なら仕方ないって、思っちゃったんだよ」
「それは――」
ピッー、という音が鳴って、春香の言葉を遮るようにドアが開いた。
無駄話が多すぎたらしい。観覧車が一周して、元の場所に帰って来ていた。
仕方ないので観覧車から降りる。空は暗く、ばら蒔いた鉄のように星が光っている。
「ごめん、車行こうか」
「……えぇ」
少し気まずいまま、二人で駐車場を目指した。
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