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一度通った道をまた走っていた。しかし、暗闇に塗り潰されているので行きとは何となく違う感じがする。周りの景色が矢のように後ろへと飛んでいくのだけは一緒だが。
車内には、重油のようにねっとりとした沈黙が漂っていた。
「――それでさ、もうそん頃には手遅れだったんだよ。父さんも母親も俺が帰ったら微妙な顔するんだ。だから、俺にとっちゃ妹が唯一の家族なんだ」
それでも、沈黙を破かなければならなかった。懺悔のように、自然と言葉が出てくる。
「それって……静は重荷になってませんか? だって――」
確かめるように、慎重に話してくる春香の言葉を遮った。
「昔の人ってさ、天動説を信じてたじゃん」
「……えっ?」
いきなり話しを変えた俺に、疑惑と困惑の眼差しを向けてくる。気にせず、話しを続ける。
「だからさ、昔の人は天動説を信じてたから、何で火星が夜空のあちこちを動きまわってるか説明出来なかった。自転も公転も分からないから、複合運動する火星が動きまわってる理由がどうしても説明出来なかったのさ」
「……えっ、と?」
「それと同じだよ。前提とか質問が間違ってる以上、正しい答えなんて分からない」
そこまで言って、春香はようやく俺が言いたい事を分かったらしい。
静が迷惑になってる、静が重荷になってる。そんなのは違う。
静は既に俺の手から出ようとしてる。だから、結局これは俺の我儘なのだ。
「だからといって、お兄さんが彼女を作らない理由にはなりませんよね」
重苦しく訊ねてくる春香を見て苦笑が出る。諦めてくれてないらしい。
「俺さ、大抵の事は殆ど一人で出来ちゃって、料理とかも結構出来るのさ」
たかが二年。されど二年。殆ど一人で料理を作ってたりした時代。一人で料理を食べていた時。
母親が料理を作り始めても食べず、親がいない時を見計らって、自分で料理作って部屋で食べる。そんな時さえあった。
「そしたら妹が言ったんだよ。じゃあ、料理作るの禁止ってさ。私があきにぃの料理作るって。料理なんてしたことなかった奴が、言ってくれたんだよ。
彼女って、時間とか金とか、他にも色んなモノ使うじゃん? 前の彼女もさ、束縛されたり金使ったりで、でも全然楽しくなかったし嬉しくなかった。妹になんか奢ってあげたり、プレゼントあげたりしてた方がずっと楽しかったし嬉しくなった」
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