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車を止める。何回か見た、春香の家の前に到着した。
締めだ。気を引き締める。
「だからさ、妹に起こされて、妹の料理食べて、妹と遊びに行って、そういうのがいいんだ。彼女でも、友人でもない、妹っていう、家族がいてくれれば、俺は幸せなんだ」
車内は静寂に覆われた。深海のように重苦しい。
こう言ってはなんだが、推測でモノを言うが、春香は歳上で大学生の俺に憧れてるだけだと思う。自分にもってないモノをもっているという幻想を、俺にもっている。女性というのは得てしてそういうところがある。いや、今まで俺が出会った女性の話しだが。
春香は俯いてた顔をあげ、潤んだ眼差しを向けてきた。その瞳には、決意が宿ってる。
「――じゃあ、静が嫁に行ったら、私にも可能性はあるってことっすね?」
えっ? とその言葉を俺が理解する前に、春香は車を飛び出て、家へと入ってしまった。
……あぁ、そういうこと。
春香は、俺にとって妹であると同時に家族である静が大切だと判断したのだ。
いや、流石に俺も静が嫁に行ったらあれこれ世話焼くこと事はしない。
だけど、それが春香と付き合う理由にはならない。まあ、春香と付き合わない理由にもならない。
俺にとっての結婚とは、父親のようになる事だ。あの立派な背中に、今でも俺は追い付けない。
「結局、これも俺の勝手か……」
なんて勝手で、我儘な子供だ。いつまでたっても、俺は大人になれない。
「……帰るか」
気分が鬱いで来た。さっさと家に向かう。妹がきっと、料理を作って待ってくれてる筈だ。
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