第三章 疑─九尾狐

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九尾狐が手招く様に韻を切る。 麗次郎と半助は様子を伺いながら、ソロリソロリと距離を縮めていく。 九尾狐が韻を放った。 キュインッ。 半助に向かって放たれた韻は、半助の動きを停めた。 「!?体が動かせない…。」 麗次郎は半助を見ながら言った。 「金縛りか…業が解けるまで、どうにも出来ぬ。」 捨てられた子犬の様に、麗次郎を見ながら半助が漏らす。 「そ…そんなぁ。」 半助の訴えも虚しく、麗次郎は九尾狐の方へ駆けて行った。 スタタタタ…。 刀を思い切り引き、九尾狐の足へ振り出した。 ツシャッ。 ブゥゥゥゥン。 見事な鏝打ちが決まった。 グバッ。 「私の足が、私の足がっ!!」 九尾狐の足から大量の血液が流れ出る。 九尾狐が麗次郎に思い切り噛みついた。 ガブリッ。 「ぐあぁぁぁっ!!!」 麗次郎の左脇腹にはがっちりと歯形がついて、血が滲み出てくる。 「麗次郎っ!?」 半助が叫んだ。 麗次郎は左手で腹部を抑え、痛みを堪えながら笑顔を見せる。 「半助…早く手伝ってくれ…このままじゃ持たぬぞ。」 一瞬半助は、麗次郎のその言葉に、自分のふがいなさを思い知らされ沈んだ。
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