第三章 疑─九尾狐

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銀次郎は半助を引っ張り起こしてやった。 妖一同が何やらざわつき始めた。 あれやこれやと何かの支度を始めたのだ。 「何やら騒がしくなったな?」 半助の言葉に銀次郎が応える。 「恐らく、里帰の宴の準備だろう…半助の歓迎も含めてな。」 次第に半助の表情が和らいで、肩の力も抜けていった。 「父方殿の名は?」 半助は銀次郎の親父に訪ねた。 すると、親父は快く応えてくれた。 「儂の名か?儂の名は夜叉丸だ!そう言うお前は何と言う?」 半助が名を告げようと口を開いた瞬間だった。 「菅半助と言うのだそうだ。」 と、我先に銀狼太が応えた。 半助は苦笑しながら、コクリと頷いた。 「半助か、うちの木偶の坊を宜しくな!」 更に引きつった笑顔で半助は言った。 「は…はい、勿論ですとも。」 宴の準備が調い、てんやわんやの大騒ぎが始まった。 笛の音、太鼓、琵琶、三味線、踊れや歌えやと大層楽し気である。 半助も浮かれて踊り出す。 銀次郎も愛用の古笛を左の袖元から取り出し、軽快に吹き鳴らす。 夜は始まったばかりだ…
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