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「――ッ!」
バッと振り返り、反射で腰に下げられたホルスターに手を伸ばす。しかし、向いた先にいた人物を認めて警戒を緩める。
「何かお困りですか?」
落ち着いた雰囲気を持つ老人だった。服装や手荷物から旅人であると推測出来る。
「あなたはとても熱心な方だ。独り言が出てしまうくらいに」
柔和な笑みを浮かべる老人に、コウは曖昧に返すしかなかった。
「実は……」
遠慮がちに切り出し、コウは老人に相談を持ち掛けてみた。広げていた地図を老人に見せ、指をその上に滑らせる。
少し考えるそぶりを見せた老人は、思いついたように自らの指を地図に乗せた。
「この街に行きたいのでしょう?」
「は、はい」
頭上にいるフウにちらりと目線を送ったコウは、軽く首を傾げて老人の指の行き先を追った。
「ここに森があるでしょう」
次の目的地である街より少し南にある森を、老人は印をつけるようにその場所を回した。
「ええ」
「通常の街道を通るより、この森を一直線に突き抜けていった方が早い。地図の縮尺から見ても一日歩けば大丈夫でしょう」
「あっ、そうか!」
コウも納得の声を上げる。すると、老人に一礼して大急ぎで地図を畳んだ。
「ありがとうございました」
『お、おい!』
走り出したコウを、老人に一瞥くれてからフウも慌てて追いかけた。
二人は、その後の老人の表情は見なかったのだ。
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