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「私も姉さん達みたいなことしたいなぁって……本当は心の中ではずっと思っていたんです。だけど、お兄様の顔を見ると急に頭が真っ白っていいますか、何も考えられなくなっちゃうんです。いつもならこんなこと絶対にならないのに……私、おかしいですよね」
前を向いたまま、由鬼は笑う。
そして、その足を止める。
「ねぇ……にーにー。私、何をすればいいのかな?」
元気のない微笑みを俺に向け、由鬼は俺にそう聞いてきた。
「さぁ?俺にもわかんねーよ、そんなこと。なんせお前とこんなふうに二人っきりになるなんて初めてだから、俺だって何したらいいかわかんねーよ……。でも――」
俺はそこで言葉を止め、由鬼に優しく微笑みかけ、左手を差し出した。
「手を繋いで歩くくらいでいいと思うぜ?"まだ"初めてなんだからさ」
「…………うん」
緊張し、僅かに震えるその右手を伸ばし、由鬼は恐る恐るといった感じで俺の手を掴んだ。
まだ震える俺の手の中の一回りも小さい手。
俺はその震える小さな手を、優しく包み込むようにギュッと握る。
すると、その小さな手の震えが止まった。
「歩こうか」
「……うん」
そして俺達は再び歩き出す。
さっきと同じで会話なんて一切ない。
だけど、今度は手を繋いで。
ただそれだけで十分だった。
気恥ずかしさもあるけど、昔にあったこの手の感触が……とても懐かしかったから――。
◇
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