хⅣх~最後の夏は~

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  「ゆっくりと、あの人の冷たい血液を吸いながら……俺は涙を流した。ゆっくりと、あの人の冷たい血液を喰らいながら……あの人は俺にいくつもの願いを俺に託した」 「性格がさ……まさに唯我独尊って感じで、酷いもんなんだよ、あの人。わがままで……自分勝手で……自分が良ければ何だっていい……そんな性格だった」 「願いってのも性格と同じで酷いもんでさ……『死ぬな』とか『妹をよろしく』とか『知人に会いに行け』とか『自分のことは忘れろ』とか――『他に愛する者を見付けろ』だとか……」 「正直、ふざけんなって思った。願いが支離滅裂なことばっかで、俺に関係ないことばっかで…………『他に愛する者を見付けろ』とかありえねぇだろ?仮にも恋人だったんだぜ?しかもこんな別れ方で。こんな時に。こんな死に方で。……見付けれるわけねぇだろ……?」 コイツはそこまで言うと、潤んでいた瞳を拭った。 「……俺は、絶対そんな奴見つからねぇ、絶対そんなこと出来ねぇって、ずっと思ってた。……ぶっちゃけ、俺の『愛する』って感情さ……あの人を殺した時に無くなってたんだ」 「……え?」 「記憶。それを頼りに、偽りの自分を作ってただけなんだ。子供の頃の……『愛する』ことを知っていた時の記憶を頼りに……な」  
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