梅雨と僕と彼女

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 ――梅雨入り。  鬱陶しく纏わり付いてくるジメジメとした湿気に、僕の癖毛も例外なく、孤を描くようにしてうねっていた。 「……怠い」  どうも僕は梅雨時になると全身に異常なまでの気怠さを感じる。勿論それは僕だけではないのだろうが――お陰で仕事も満足にできやしない。 「職務怠慢だなー……」  仕方ない、と開き直れるような軽い職業に就いてはいない。むしろ――おっと、もう着いたのか。 「さて――いつ見ても大きいな、ここは。自分でもそう思わないかい? ――千川国立総合病院さん」  目の前に聳(そび)え立つ無機物に話しかけても応える訳がない、と知りながらも、わかっててやる僕は今、相当意識がまどろんでいるんだと思う。       ―◆―  ――千川国立総合病院。  都内最高峰の設備を整えており、そんじょそこらの病院とは訳が違う。  各科のスペシャリストがゴロゴロしているような所で、芸能界の大御所や、政界などから広く支持を得ている。  患者の死亡率は年々低下を見せ続け、ここ最近の記録では約30%を切った。  まあ簡単に言えば、口では表すことの出来ないとても凄い所、ってこと。       ―◆―  さて――早くこの湿気から抜け出したいし、入るとしよう。  という訳で。  まあ一言で言えば僕の職業は――〝医者〟だ。
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