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お前には解るだろうか。この殺されそうな苦しみが。
お前には解るだろうか。この狂おしいほどの悲しみが。
お前には解るだろうか。
この叫びたいほどの、愛しさが…。
「ほら、タオル。あの発情女から頼まれた。」
今日もライブが終わり、ステージの上でギターの絃を弄っていると、珍しいことに哲の方から私へと声をかけてきた。少し色素の抜けたこげ茶色の頭髪を短く揃え、いつものように憮然とした顔で一枚のタオルを突きつけている。出会って以来相変わらずの顔に、思わず笑みが零れてしまう。まあ、それだけの理由でもないのだが。
「…何笑ってんだよ。」
「いや、相変わらずだと思ってな。」
「やらねーぞ、これ。」
素直に答えると、彼は吊りがちな眉をもっと吊り上げて、持っていたタオルを下げようとする。その手を、私は苦笑しながら止めた。
「いや、さすがに汗だくだと風邪を引く。渡してはもらえないか?」
そう説明すると、しばらく私を睨みつけた後、哲は小さく舌打ちしてタオルを投げてよこした。
「しかし、珍しいな。鈴香の言うことを素直に聞くとは。」
なんだかこのまま帰すのも惜しく思って、私は少し会話を飛ばしてやった。それを聞いて、明らかに哲の表情が強張る。
「あの女の頼みを蹴ると、後々何かと厄介なだけだ。」
その言葉に、胸の奥がチリ…と痛んだ。
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