1、何を想い女は歌う

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「…私の頼みを蹴るのは、平気なのか?」 自然と口をついて出てきた言葉に、自分でも少し驚く。鈴香にだけか?嫌われたくないのは。 鈴香だけ、『特別』なのか? 憎らしいほど黒く渦巻く感情を、私は強引に押し付ける。『嫉妬』なんて、らしくない…。  この激情一つ伝える事の出来ない私には、そんなことを考える権利など無い。 「アンタとあの女じゃ、根本的に恐怖の質が違ぇんだよ。あの女に逆らったら、確実にヤられるだろうが!」 「…まあ、確かにそうだな。」 そう返しつつ、私は日頃の鈴香の態度を思い出す。時々牽制はしているが、いつ過ちが起こってもおかしくない状況だ。ただ、私は少し彼女の行動に違和感を感じていた。鈴香は、こんなにのんびり男を落とす女じゃない。狙ったらその日のうちに部屋に連れ込む、ある意味やり手の女性だ。哲の場合、それらしい事をほのめかしてはいるが、どうも何か他の目的があるように思える。…どっちにしろ、近付かれるのはやはり嫌だが。 「だろ?その点、アンタは絶対んな事しねぇし、断っても怒る事もねぇだろーし。」 「…だから、私の場合は平気で断るのか?」 「は?俺がいつ、お前の頼みを平気で蹴ったりなんかしたんだよ。」 私の言葉に、哲は気分を害したように私を睨みつけてきた。 「アンタの頼みだって、そう簡単に蹴りゃしねーよ。お前の場合、断ったら一人で無茶しそうだからな。…そしたらそれも厄介だ。」 イライラとそっぽを向く哲の頬が、少し赤く見えたのは…。  私の、自惚れ…だろうか。
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