聴こえない音、感じる音

4/16
前へ
/16ページ
次へ
「菜々子、サクラただいま」  主人の雅樹から革の鞄を受け取る。  私に鞄を手渡すと雅樹はサクラを抱き上げて頬にキスをする。 『私にはないの?』 「ハハッ。ママもキスして欲しいんだって。サクラもしてあげな」 「はーい!」  二人から両頬にキスを受けて、自然と笑顔になる。  こんな時、強く思う。  耳が聴こえなくても、私は充分に幸せだと。  三人で食卓を囲み、その後、雅樹がサクラをお風呂に入れてからサクラを寝かしつけた後、夫婦で酌を交わす。  ほんのり顔に熱を持ち始めた頃、私は立ち上がった。 「どうしたんだ?」 『サクラが泣いてるみたい。見てくるわ』  ニ階にある寝室に向かい部屋を覗くと、案の定サクラは起き上がって泣いていた。 『怖い夢でも見たの?』  私の問いに頷くサクラを抱いて、再び眠りに就くまで添い寝をした。 .
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加