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リビングに戻ると雅樹はどうだった?と聞いてきた。
『怖い夢見たんですって。でも、もう大丈夫。ぐっすり寝たわ』
「そうか」
私の言葉に安堵して、雅樹は結露するビール瓶からビールをグラスに注ぎ、次に私のグラスにも注いでくれた。
「それにしても、菜々子はどうして分かるんだ? 僕にはサクラの泣き声は聴こえなかったけど。母親の勘ってやつか?」
赤くなった顔を捻らせる。
『私には耳で聴こえなくても、たーくさんの音が聴こえるんですから』
悪戯っぽく、そして誇らしげにグラスを掲げると、雅樹は肩を竦めた。
「そうでした。なんだっけ? ほら、菜々子がよく言ってるあれ」
『奇跡の音よ。もう、覚える気ないでしょ?』
「だって、その奇跡の音? っていうのを聴いたことねーんだもん」
『耳が聴こえるのも不自由なのね』
クスリと一つ笑って、ビールを飲み込んだ。
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