戦の後

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 気付いたら誰もいなかった。  辺りには硝煙の匂いが立ちこめ、時折、瓦礫の崩れる音が耳に響く。  「……マ…マ?何処にいるの?」  私は、不安になり、愛する人達を呼んだ。  「ママーっ!パパーっ!!何処なのーっ!? あたし……、此処にいるよ?置いてっちゃ嫌だよーっ!!」  この時、私はかなり子供で、何にもわかって無かったんだと思う。  パパもママも、意地悪をしているだけですぐ近くに隠れてるんだと本気で思ってた。  瓦礫の下に、意識を向ければ、そこに答えがあったのかも知れない。  でも、私はそれをせず、ただ泣きじゃくっていた。  見ない振りをしていたのかも知れない。  そんな私に、何処からか声がかかったのは、それから間もなくの事だった。  「……お前、一人なのか?」  私は一瞬だけビクリとしたが、声の主を見て少し安堵した。  相手は、私と二つ三つしか変わらない少年だったからだ。  私はその少年に泣き付いた。  「うん。パパもママも呼んでも来てくれないの。意地悪してるみたい。 お家も……、無くなっちゃった。」  言うだけ言って泣きだしてしまった私を、少年はそっと布で包み抱き締めてくれた。  その時、私は初めて気付いたのだ。  少年は、とても傷だらけで、その左腕からは出血し、着ているものも私よりボロボロで寒いはずだという事に。  少年は言った。  「此処は多分、もう駄目なんだよ。お前の親父さん達もきっと戻っちゃ来ないさ。 一緒に行こう?」  そして、やっと私は現実を理解した。 ――戦争があった事    爆撃があった事     両親が死んだ事  また涙が出てきた。  先程までと違う涙だ。  少年が私に手を差出してくれた。  私はその手を取る。  そして私たちは歩きだした。  ――明日を生き延びるために……。  あれから10年。  私はまたこの地に立っていた。  あの日、きちんとさよならを言えなかった両親に、そして村にさよならを言うために。  ――そして、伝えたい事を伝えるために。  「もうすぐ日が暮れる。そろそろ帰ろう?」  また何処からともなく声がかかる。  そう、あの時私の手を取ってくれた彼だ。  私は頷き、あの日のように彼の手を取る。  パパ、ママ。私は今、幸せだよ。  さよなら。  そしてまた、此処から二人で歩きだした。
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