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むしろ、喜んでいたのかも知れない。
だって、父が死んだ後、僕の世界は急に開けた。
ずっと、父の言う通りやって来たのに、これからは自分の好きなようにしていいんだ。
父が亡くなってからは、母もただの気の弱い老婆にしか思えなくなった。
これからは、僕と小鳥中心の生活が送れる!
きっと小鳥も、もう空の事など忘れてしまうだろう!
そう思った。
なのに、小鳥は何時までたっても悲しい顔を空に向けていた。
豪華な食事も、宝石も、小鳥の気分を晴らす事は無かった。
どうしてだ!?
僕がここまでしてやってるのに!!
僕は苛立ちを抑えきれなくなり、ある日とうとう小鳥に問いただした。
「お前には、これ以上無い程の贅沢をさせてやれる!もし他に欲しい物があれば、なんだって買ってやれる!!それなのに何故なんだ?何が気に入らないっ!?」
すると小鳥は、悲しそうな顔をして、僕に答えた。
「ご主人、私には贅沢品など、道端の小石程の価値しかないのでございます。幼き日、ご主人はわかって下さっていると思っておりましたのに……」
この言葉は僕を貫いた。
そうだ、僕は知っていたはずだった。
高価なおもちゃよりも、外でドロにまみれて遊びたかった。
贅沢な食事よりも、皆で食卓を囲んでみたかった。
幼い頃はわかっていたはずなのに、何時から忘れてしまっていたんだろう?
僕はやっと理解した。
小鳥は、ここじゃあ幸せになれないんだ。
僕はそっと、鳥籠の扉を引き上げる。
小鳥はおもむろに出入口に足をかけ、小首を傾げて僕を見た。
――本当にいいの?
僕には、そう言っているように思えた。
だから僕は小さく頷き、
「いいんだよ。さようなら、僕の小鳥」
と言うと、小鳥は最初は 小さく、やがて大きく翼を動かし翔び立った。
去りぎわに、「有難う、有難うご主人!」と数度繰り返すと、蒼い空へと去って行った。
小鳥の黄色い羽が蒼に映えて、とても綺麗だったのを覚えている。
涙が出た。
あまりの綺麗さに涙が。
やっぱり小鳥には空がよく似合う。
空こそが小鳥の居場所だったんだ。
そして今……
僕は一人、旅をしている。
――本当の自分の居場所を見つけるために………
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