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そこは、暗い路地裏を進み、いかにも浮浪者たちがたむろしていそうな貧民街の奥の建物の階段を上った所にあった。
俺は、軋んだドアノブに手をかけ深呼吸をする。
ここには仇(かたき)がいる。
俺の育ての親を殺した仇が……。
――叔父が死んだ。
そう聞かされたのは、葬式が等の昔に過ぎた一年半後の事だった。
幼いころ、両親を亡くした俺に、生きるすべを叩き込んでくれたのは叔父だった。
狩りの仕方、身を守る方法、更にはポーカーのルールまで。
そして、情報屋を転々としながらも、やっと叔父貴を殺した奴の居所を見つけたのだ。
やっとこれで、叔父貴に借りが返せる。
俺は、警戒心だけは忘れず、に勢いをつけて扉を開けた。
しかしそこには、女が一人、椅子に座ってくつろいでいるだけだった。
拍子抜けした俺は、長剣を構えた肩を落とす。
(なんだ?情報屋のやつ、偽を掴ませやがったか?)
女は、ゆっくりと俺に視線を移すと、同じようにゆっくり聞いた。
「誰?何か用?」
不思議な女だった。
肌は抜けるように白いのに、眼も、長く伸ばした髪も、まるで闇のように黒かった。
それに、この状況にも動じる事無く、真っ直ぐにこちらを見返してくる。
俺はふと、情報屋の言葉を思い返した。
『あんたの探してるのはきっと、カラスって呼ばれてる殺し屋さ。
近くで見た奴は生きていねぇが、遠目で見た奴らの話だと、月の光を背に受けて、まるでカラスの様に飛んでくって話だぜ?』
――カラス……。
この女の纏う色彩は、正しくそのイメージに直結した。
俺は重い口を開く。
「まさか……、あんたがカラスか?」
女も、腰を上げ、その口を開いた。
「なんて呼ばれているかは知らない。
でももし、あなたが殺しの依頼か、もしくは誰かを殺しに来たのなら、それは私の事だと思う」
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