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淡々と答える女の様子は、確かに常人には持つことの出来ないものだった。
俺は、内心の動揺を押さえきれずに長剣を持ち直しながら、女に対峙した。
「はっ!叔父貴が殺されたって言うから、どんな男かと思えば、まさか女だったとはな。
確かに叔父貴は全うな人間じゃ無かったかも知れねぇが、俺には恩人だった。悪いけど、あんたには死んで貰うぜ」
そして、俺は女に斬りかかった。
刃先は真っ直ぐに女の首筋に延びる。
しかし、俺はそのギリギリの所で刃を止めずにはいられなかった。
思わず呟きが口をついてでる。
「……何故だ?何故反撃してこない?」
そう、女はまるで動かず、ただこちらを真っ直ぐ見据えるのみだった。
自らの命が危ぶまれているというのに……!!
そんな俺の問いに、女は初めて目線をそらし、おもむろに口を開いた。
「私には生きることがどういう事なのかわからないんだ。わからないのに、今までずっと、生きるために人を殺し続けてきた。
だから自分も、いつか同じように殺されるんだと思ってた。
でもどうせ殺されるなら、私が殺した者の身内に殺されようと、昔からずっと決めていたんだ」
そう言うと、女は殺してくれと言わんばかりに目を閉じた。
俺は、戸惑わずにはいられなかった。
だってそうだろう?
叔父貴はきっと苦しんだはずだ。
これからやるはずだった事、死んで残していくものの事を考え、未練のうちに死んでいったに違いないはずなんだ。
それなのにこの女は、まるで、生きる事も、死ぬ事も、あまり変わらないような気楽さで、簡単に死を選ぼうというんだ!
俺は、今までにとは違った怒りを覚え、そこから暫く……、もしかしたら一瞬だけ動けなくなった。
その時だった。
背後から数人の人間が、階段をかけ上ってくる足音が響いて来たのは!
女は閉じていた目を開き目線で俺を制すと、そっと自らの腰に手をやり、侵入者に備える準備にかかった。
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