第零章

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 攻撃の為の拳銃も失い。  逃走の為の車も失い。  防御の為の相方も失う。  自分の手にはもう何も残されていない。たった一人によって彼は全てを失った。全ての手を潰されてしまった。手が無い人間に何が出来る。ならば脚。だがその脚は震えて使い物にならない。では脳。この現状すら受け止められない脳に何を判断できるというのだ。  これで最後。これが本当の最後。  言葉が脳裏を過る時、次に自分の未来が頭を過った。それは残酷で、惨めな未来に映る自分の姿だった。  嫌だと言う黒い文字が男の脳に張り付く。  文字は次第に増加し、脳を覆う。黒く、漆黒へと姿を化ける。黒い脳に光は見出せず、病む心は未来をも歪ませる。彼の覚悟は絶望へと変わり、絶望は終末へ。未来が呪い、変化する感情。憤怒、哀願、楽観、喜劇。全ての感情が入り混じる。全ての色を混ぜると黒になるように、全ての感情を混ぜた彼の心には黒が残った。  「クソッ! 嫌だ! 嫌だ! あんなところ、俺は御免だ!」  バリバリと頭を掻く。爪をたて何度も掻いたせいか頭皮が荒れ、所々赤くなっている。  「そんなこと知らんがな」
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