第一章

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 「そりゃ残念だねい。というか、もしかしてまた茜さんの為に頑張ってるの? それなら熱心な話さね。んで、その子は見つかったのかね?」  「『また』とは余計な御世話だ。確かに茜は関係有るけど、今回はこっちの都合の方がデカい。それと、女はまだ見つかってねぇ。取り敢えず怪しいと思ってる奴は虱潰しにやってんだよ。今流行りの連続通り魔とかな」  「って事はまだ行方不明なんだねい。何時頃から行方不明なのさ?」  「一昨日の夜だ」  「一昨日? これはまた随分と最近だねい」  「本条(ほんじょう)と協力して片っ端から可能性を潰してんだ。此処のところほぼ寝てねぇな。営業の件もあるし、捜索の件もある。寝てる時間がもったいねぇからな」  「お店の方を休めばいいじゃんか?」  「そう思った矢先にお前が来たんだよ馬鹿が」  一人の女性の捜索と言うテーマのやり取りの筈が、気付けば二人がいがみ合っていると言う形式に戻っている。これが彼らの仲なのだろうと互いの会話を見守ると、大きな扉が開く音が二人の注目を入口へと寄せていた。誰が来たと二人して見合わせていると、キチンとしたスーツを身につけ、ネクタイは締め、とこの後出勤するんではなかろうと言う格好をした四十代になるまさしくオッサンが来店した。赤羽自身は正直のところ青年が帰ると同時に店を切り上げ、捜索を再開したい処だが、流石に態々来店してくれた客を追い出すのも気が引ける。何時もの癖で営業中の札をそのままにした自分にも非があると考え、客をそのままにしておく。  「へぇ、珍しいね。来客だなんてさ」  「珍しいとはどう意味だこの野郎」  「そのまんまの意味だぜい」とゲラゲラ笑う青年に向かって湯切りを振り回すオッサン。それをひょいひょい難なく回避していると、サラリーマン風のオッサンが手をゆっくり挙げているのに二人は気付いた。  「ホラ、お客様が御呼びだよ。行った行った」  「うっせ!」
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