第一章

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 青年と燕の眼が合い、思わず燕は眼を逸らしてしまう。  「えっと……だ、大丈夫です。お、お兄さんこそ大丈夫ですか?」  恐らく人見知りなのだ。初対面の人と話す事が苦手なのだろう。しどろもどろと落ち着きなく彼の質問に応えている。頬をポリポリと掻いたり、紅潮したりと物凄く落ち着きないのは見ていて分かる。実際彼女も早く一人になりたいと考えていた。  「俺は元より丈夫だからね。怪我の一つや二つ出来たところで何も思わないんさ。ところで、つ」  「そ、それより急いでる見たいでしたけど、だ、大丈夫なんですか?」  「あ、そうだった。ホントに御免な」  燕の意見から使命を思い出し、言おうと思っていた言葉を懐に仕舞う。彼は落ちている携帯電話を拾い上げ、それをポケットに捻じ込むと、男を追いかけることに専念した。颯爽と去る彼の後ろ姿に安堵の息を零すと、彼女は落ちている残りの携帯を手に取った。その携帯を手にした時、一つの異変に気付く。  「あれ? これ、私の携帯じゃないや」  またしても彼女の呟きは人混みにのまれてしまった。 ◆  男は走る。サラリーマンの格好をした男は唯ひたすらこの町を走り続けた。元々は彼の計画に走ると言う予定は組み込まれておらず、この流れは予想外なのだ。    はぁはぁ、と何度も酸素供給を繰り返し、自分の肺に限界が来ているのが体中で感じている。何故、走る事になった。彼はバイクの鍵を持っているという事は当然バイクを所持していた。彼の段取りはこうだった。逃走に害する一般人の回避を兼ねて、人目のつかない飲食店で食事をする。そして食い逃げした後は表通りに逃げ込み、そこから少しした所に置いてある原付バイクを利用して逃走。これが彼の段取りだった。その為の運動靴であり、その為の鍵である。  だが、ここで起きた問題とは、間抜けな事に、違法駐車していたバイクがその間に撤去されてしまったという事だ。
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