第一章

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 一方、コートの男とぶつかる事で縮まった二人の差が、男を更に焦らせた。我武者羅に走り出して、次に彼が曲がった先はどうやら人気が無い細道の様だった。照明すらなく、夜の闇に包まれた一直線の道は周りの高い建造物で一層の圧迫感すら感じる。そんな狭苦しく息苦しい暗闇の細道には、不釣り合いな光が一つ。回る、回る、旋回する赤い光と白黒の車、そして一人の青い帽子を被る人物が待機していた。この人物こそある男が呼び出した、本条と呼ばれる警察官である。本条は指示通りそこに待機し、指示通り一人の男がやってくるのを待った。そして、次の指示は彼の静止だった。警察として捕まえるのは当然だが、本条の頭には彼へのお願いが大きかった。男が横を過る瞬間、本条は自分の脚で、男の脚を払った。まるで鞭の様にしなったその脚は、男を空中へと誘う。一回転、二回転と本条の横でパフォーマンスとも思える凄まじい空中回転を披露するが、本条自身は気にもせず顎に手を当てる。後ろで人間と地面がぶつかる音が聞こえても表情を一つも変えない。ただ本条は一人の人物を待った。そう、今回の依頼主とでも呼べる、ある人物。  その人物はすぐにでもやってきた。息を切らし、二十四時間走りきったかのような疲労感を本条に見せていた。ヘロヘロになりながら本条の傍まで寄ると、彼は肩で息をし始めた。  「はぁ、はぁ、ほ、本条……助かったよ」  「何、昔のよしみだ。このくらいの善行は気に留めないでくれ」  「まぁ、警察官なんだからこれぐらいの事を一日と言わず、一時間単位でやってくれた方が皆さんの税から引かして貰ってる甲斐があるんじゃないの?」  「君のその減らず口とでも呼べる喋り方も相変わらずの様でなによりだ天塚(あまづか)」
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