第一章

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 天塚。そう呼ばれた男は即ち彼に電話を掛けた人物。天塚。そう呼ばれた男は即ち逃げまとう男を追いかけていた人物。天塚。そう呼ばれた人物は即ち赤羽と話してた人物。大体理解していたと思うが、今までの一連の流れを追いかけた人物の名前は『天塚』と言う事が判明した。天塚は袖で汗を拭い、道の隅の電柱に背を預けた。  「ところで君に聴きたい事がある?」  「んー?」  間延びした聞き返しにも然程困る事無く彼は話を続けていく。  「良くこの男を此処に仕向けたものだな。何かタネでもあるのか?」  本条の問いに天塚は薄く笑いを浮かべる。長い前髪を手で後ろに送り、一時的なオールバックをつくる。剥き出しとなった額に夜風が当たり、体を冷やしていく。それを暫く続け、体のクールダウンをしながら天塚は彼の質問に応じた。やや笑いながら  「どれだけ地理を把握しているかさ。幾ら道が入り組んでいるとはいえ、逃走してる人間が無造作に道を選ぶとは思えない。最低限、人気が無い道を選ぶに決まってるさね。その理屈でいうなら大きな道、と言うよりかは、人気が無い細道を選ぶだろうねい。行く場所があらかた限られてくるわけだし、そういった法則性で考えて、ルート構築すれば、案外簡単に誘導が出来るもんだぜい?」  笑いながら敵陣自陣の駒配置と戦術を公開し、詰将棋のやり方を一字一句、一から漏れなく説明する。その手口を傾聴し、本条は顎に手を当て、小さく頷いた。  「それは見事な話だ。僕の様な矮小な脳では、追尾中にそのような解答を至るには先ず無理に違いない。流石は天塚だ」  「よせやい。褒めたら調子乗るよ、乗っちゃうよ俺?」  クールに反応する本条と照れながら笑う天塚。調子に乗って彼の笑いが次第に大きくなる。このまま踊り狂うのではないだろうか。  「そういえば天塚」
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