第一章

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 「何?」と聞き返そうと笑いっぱなしの顔を本条へと向けると、彼は変わらぬ無表情で右手に手錠を所持し、天塚に見えるように握っていた。笑い声が一瞬で止み、目を二、三擦りもう一度眼を開いてみるが、矢張りそこには銀色の手錠が存在している。まばたきを何度もし、改めてみるとやっぱり手錠がある。笑顔は次第に引き攣り、自前の笑顔は愛想笑いと化けていく。いよいよ冷や汗までかいてきたところで天塚は漸く動き出した。  「……なにそれ?」    出てくる言葉は小さくも情けない、現状確認の言葉。  「無銭飲食による現行犯逮捕だ。赤羽が怒髪天だったぞ」  「あ、何? もしかして通報された的何かっスか?」  思い当たる要因が充分有り過ぎでしおらしくなる。脱出経路を地味に詮索しつつも、それは自分の行いがその経路を見事に潰していく。このままではいけないと取り敢えず自前の武器をフル活用し、己の限界突破に挑み、至難な試練を乗り越えようとしてみる。  「ちょっ、ちょっと待てよ! 俺は赤羽の為を思って食い逃げを追ったんだって! その仕打ちはあんまりだ。ちょっと赤羽に電話させてくれい」  「そうか、なら早く電話をしてくれ」  「急かさなくても分かってるよ」  一応過程や経過を見守る。天塚はポケットから携帯電話を取り出し、赤羽に電話を掛けようとした時、一つの異変に気付いた。  「あれ? これ俺の携帯じゃないじゃん」
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