第二章

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 彼女の疑問がそこに行きつくのは当然の結果である。見知らぬ男性が、一回ぶつかっただけの自分と一つの繋がりも無い男性が再び彼女の前に現れた。それだけでも巨大で難解な不思議だ。百歩譲って彼が『携帯を返しに来た』が本当だったとしよう。だが、それが本当だったとしても彼は何故帰らないのだろうか。理由は当然『用件がある』しかない。もしこれ以外の理由があるのなら変人以外の何者でもない。その質問に天塚は不思議そうな顔しながら頬をポリポリと掻く。明後日の方を向きながら、彼は中々の間抜けな言葉を吐く。  「いや、用件自体はもう済んだって。携帯返したし、悪漢からは逃げ切れたみたいだし」  「え、あの、じゃあ何で帰らないんですか?」  更なる質問。でも今度はその質問の意味を理解してないのかとても不思議そうな顔をしている。不思議な存在が不思議な顔をしている。不思議づくめの彼の行動には彼女は目を離せない。彼女は質問の答えによっては逃げ出そうかと思った矢先、天塚は口を開いた。  「いや、逆に聞いちゃうけどアンタも何で帰らないのさ? その手に持つ鞄、明光塾の鞄だよね? 確かあそこは九時半に終わりだった気がするし、今の時間から考えると一時間も経ってるよ? 明光塾の場所は確か駅近くだから徒歩十何分で行ける距離。逆にここは明光塾から徒歩数十分かかる距離ってことはこっちに来てからは三十分ぐらい待機してる事になる。こんな真夜中に中学生が三十分もひたすら都会の公園で一人ぼっちってシチュエーションは流石に否めないよ」  その言葉を聞いた時、思わず口が黙ってしまう。彼女はここにいる理由は彼女にしか分からない。逆から言うと理由があるから彼女は独りでここにいるのだ。余程の理由が無い限り、小さな理由など今の時間と彼女の年齢の二つの情報が存在するだけで彼にとっては眉唾ものなのだ。彼は既にその事に気付いているのだ。いや、まだ疑うの段階に過ぎないが、子供が考え出す言い訳など、解かれるのは時間の問題だ。燕はそれに気付き、でも理由がバレまいと回らない舌と思考を働かせる。  「えと、良いじゃないですか。一人で居る時間がほしいんです」  「ふぅん。まぁ、そういう時もあるもんかね。悩み多きお年頃って奴かね」  「そ、そーですよ」
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