第二章

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 本日何度目になろう情けない聞き返しはこの男によって何度もつくられる。矢張りこの男は良く分からない。不思議を重ねたこの男は不思議から不気味に昇華しかけているに違いない。見知らぬ人物が相談に乗ると言われて信じる奴等先ずいないだろう。でも、彼女は違った。  「ほ、本当に相談に乗ってくれるんですか?」  「うん。全然構わないよ。お悩み相談室みたいなもんだと思ってくれい」  彼女は意外にも彼の提案を受け入れようとしている。彼女にとっては実は嬉しい出来事なのかもしれない。相談相手、きっと彼女はこの言葉に大きな魅力を感じているに違いない。  「あ、でも何で私見たいな人に……」  「人助けは趣味みたいなものだからさ。あんま深く思わず愚痴でもなんでも語ってみな」  相談、その言葉が彼女の頭に何度も何度も駆け廻る。その言葉が彼女の歯止めが無くし、抑え込んでいる感情が少しずつ漏れてきた。本当は彼女は自分の悩みを誰かにうち明かしたかったのだ。でも、明かす相手もいない。悶々と積もる彼女の不安や悩みは彼女を蝕み、彼女の心を極限まで擦りきらせていた。余裕がなく、時間が無く、色々な物に追い詰められた彼女は全てが辛くて仕方がなかった。何もかもが自分を辛くし、何もかもが自分を戒めた。自分の極限状態を前菜とし、語り出した彼女は、誰にも止められなかった。  「私は、分かってると思いますけど明光塾に通ってるんです。私の家は両親が結構有名会社の社員でそれが原因で凄く厳しくされてて、良い高校行け、良い大学行け、良い仕事に就けって口癖のように言って来るんです。勿論明光塾の入塾も親の推薦です。私は嫌でした。元々勉強するのも嫌いですし、色々な人を蹴落としたりするのってなんか罪悪感あるし、私にとって入塾は向いてなかったんです。でも、お父さんやお母さんのプレッシャーが強くて、断れなくて、それが理由で怒られたくなくて、精一杯努力して塾に入りました。それだけでも辛かったです。やりたいこと全部捨てて、友達の大半も離れちゃいましたし、何より、自由じゃ無かった。でも、入ってからはもっと辛かったです。嫌いな勉強を一生懸命して成績を維持しなきゃいけないし、落ちたりしたら怒られます。上がってもまだ甘いって褒めてもくれません。だから頑張ったんです。だけど、私成績落ちちゃって『はぐれ者』とか呼ばれるクラスに異動しちゃったんです」
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