第二章

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 「だから私は帰れないんです。帰りたくないんです。怒られるのが嫌で嫌で、今が辛くて辛くて気付いたらここに居ました。多分お兄さんの言うとおり、さっきから来てるメールはお母さんが送ってきてるんだと思います。正直メールの中身は一つも見たくないです。負い目とか感じてるんじゃなくて、また勉強漬けの一日にこの手紙で引きもどされるのが嫌なんです。もう、限界なんですよきっと。だから、私は独りでいるんです。独りなら怒られる事も無いし、勉強する必要もないです。自由気ままにいられます。もう、あの家に帰りたくないんです」  彼女は小さく涙を流す。その涙は彼女の感情でもあり、心でもある。ポロポロと目から零れ落ちる涙。  「もう、死んでもいいぐらい」  慌てて燕は涙を拭くと、恥ずかしそうに涙で汚れた偽りの照れ笑いを浮かべた。  「あ、スイマセンとり乱しちゃって。そもそも変な話ですよね。人に言ったからどうにかなる訳でもないのに……。でも、今日は聞いてくれて有り難うございます。大分気分が楽になりました」  燕は鞄を手に取ると立ち上がる。そのまま帰ろうと天塚に背中を向けて歩き出そうとした時、  「お待ちなさいって」  天塚からの声は彼女の足を止めた。甘い自分に説教でもするのだろうか、そのまま親に受け渡すのだろうか。何か『悪い』ことを言われるのではないかと気に病む。矢張り言うべきではなかった。矢張り言ってはならなかった。彼の次に続く言葉が恐くて彼女は後悔にみまわれる。  「要するにアンタは今帰りたくないんだよね?」  「え、あ……ハイ」  「じゃあ、さっそく遊ぼうぜい?」  口がふさがらないとは正にこの事。彼女の不安と恐怖の妄想は杞憂に終えたという事になる。それならそれで構わない。だが、彼女にとっては彼の回答は非常に印象強い物であった。予想外過ぎて、何を理解すればいいのかさえ理解出来なかった。  「俺さ、凄いこと思いついたんだよ。長い間遊んで親に怒られない方法」  そんな魔法の様な裏技が有るのだろうか。燕は思わず心が躍る。そんなことがあるなら久しぶりに遊びたい。久しぶりに勉強を忘れたい。向けていた背中を振り返り、懐かしく思える笑顔を見せながら彼へと体を向けた。天塚は変わらずニヤニヤ笑いながら、燕はさぞ嬉しそうな笑顔で二人は正真正銘初めて対面した。  「教えてください! その方法!」
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