第二章

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 彼女の願望は体に現れた。普段出さない様な大きな声まで張り上げた。それは即ち彼女がそれだけ期待しているという事だ。  「本当に簡単さ。俺がアンタを誘拐したことにすればいいんだ」  「ゆ、誘拐ですか?」  計画の全貌を知ると言う訳ではないので、片鱗だけ聞くと非常に怪しい。大丈夫なのかと考えていると、その不安を削る、作戦の全体図の語りに入った。  「そ、適当に遊びまわして頃合いになった時にアンタの親に電話。『お前の娘は預かったぜい!』見たいな内容で親を脅迫。んで揉め出した頃に俺が出頭。適当に警察の手柄にすれば万事解決。この方法で三日は遊べるんじゃない?」  中々に不安定な内容である。彼から言わして貰えば然程気にしないレベルなのだが、彼女から見たその作戦は穴だらけである。穴ぼこの作戦に彼女は当然信じられない。  「いや、流石に捜索願とか出て遊びにくいんじゃ……警察の目を盗むのも難しいですよ」  「メタルギアソリッド見たいで面白いじゃん。そんなのなんとかなるって」  楽観的とはまさに彼の為に存在する言葉だろうと信じて疑わない燕。先程までは偉そうに抜け目無い理論を押し付け彼女の本音を聞き出したというのに、そんな彼が提案した企画は何故抜け目どころか突いただけで破綻しそうな脆い計画なのだろうか。  「でも大事になったら嫌ですし……」  「アンタがここに居る時点で親から言わして貰えば既に大事になってるし、どうせならお父さんお母さんが卒倒しちゃうぐらいど派手な事やっちゃおうぜい」  「……そう、ですね」  アッハッハッハと大きな声で笑いながら提案する彼の姿に彼女は小さな変化を見せる。本当になんとかなるかもしれない。何とかなって大事になって面白い事になるかもしれない。彼に任せれば今が面白くなるかもしれない。そんな感情が小さくも芽生え、小さくも育ち始めていく。成長する感情は、次第に彼女の本音となる。  「宜しくお願いします……今日を、楽しくしてください」  「任しとけい。一日どころか一秒すらも楽しく思わしてやんよ」
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