第二章

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 天塚は相も変わらず笑顔だった。つられて彼女も自然と笑う。ハハハと二人で笑い、二人は手と手を合わせる。短くも立派な一つの握手を交わし終え、二人は互いに自己紹介を始め出す。  「俺の名前は仁。天塚 仁(あまづか じん)だ。これから何日か宜しくな」  「えっと私は綾坂 燕(あやさか つばめ)です。宜しくお願いします天塚さん」  「親しく敬語抜きで仁って呼んでくれよ。俺も下の名前で呼ぶからさ。これから仲良くやるのに敬語なんて余所余所しくてなんか嫌だからね」  「あ、うん。わかったよ。仁さん」  「仁さんじゃなくて仁」  「う、うん。宜しくね、仁……」  照れながら、恥ずかしそうに頬を染めながら会釈する少女、燕。それでも先程まであった初対面ならではの、人見知りならではのぎこちない関係は晴れたかのように見える。知らない人から友人への階級上昇にもどかしく感じつつも喜ばしく思っているのだろう。一方、天塚は相も変わらず笑顔だ。照れる事無く、笑顔を絶やさず少ない時間で知った彼はこれから更に彼自身を知りうることになるのだ。燕の為に動き、燕の為に行われた、燕の為の遊戯時間をこれから二人でこよなくもてあそぶ予定である。二人は談笑しながらこの公園の外へと歩き出した。 ◆  さて、そんなにこやかに公園を去った二人だが、同時刻でこの公園の片隅にいる一人とあるラーメン店にいる一人、合計二人はにこやかと言ってる場合ではない。殺伐とした雰囲気が漂う二人のやり取りは携帯電話と公衆電話による電子機器を介入して行われていた。 ラーメン店に携帯を持ちながら眉間にしわを寄せている赤羽。そして公園近くにあった公衆電話を使いながら変わらない冷徹な表情を見せる本条。二つの感情はまさに激突し、一方的な火花を散らしていた。  「は? 逃げられた? 本条、オメーちゃんと仕事しろよ。てかマジで働け」  『心外だな。僕は僕なりに善処したつもりだ。強いて言うなら彼の逃走能力に驚きを隠せないな。携帯も奪われたし、僕は術なしだ』  赤羽が客のいないカウンターに何度も何度も指をトントン鳴らし続ける。電話越しで肩をすくめているのが目に見えているようだ。現に本条は肩をすくめ、矢張り変化しない表情で困っているのか分からない妙な溜息を吐いている。  「まぁ、良い。本題に入んぞ」
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