第二章

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 『君にしては察しの良い事を言うな。その通りだ、彼は殺人を見事なまでに隠蔽している。そして、隠蔽しているのにも拘らず、彼の知名度は尋常ではない上がり方を見している。何故なら先ほど唱えた通り、隠蔽だけではなく、殺害を公表しているからだ。隠蔽する殺人と公表する殺人。何故これらを分けているか。この二つから君はどう何を推理する?』  幾つものパズルのピースを一つ一つ散りばめていく。後は赤羽が拾うだけであり、本条はめったに見せない小さなほほ笑みを受話器の向こうで見せていた。  「……頭を使う話は苦手だ」  『仕方無い。ではヒントを差し上げよう。犯人の動機。どのような人間を狙うか。そして犯行の手口を統一する意味。この三つが分かればどんな奴が犯人か分かるだろうな』  「分からん」  『そうだろうとは思ったがな。心理プロファイリングに近い事をやれと言ってるモノだから君には先ず解けない。天塚ならすぐに分かるだろうにな。仕方ない、答えを言おう。手口を統一する意味。それはすなわち自分自身を強調する犯人の方法と言う訳だ。つまり、アピールだ。この殺人は同一人物が実行したという共通点を必ず残している。例えば今回みたいな奴の犯行は容赦ないまでの体への傷跡、そして首の切断。これ等が彼の犯行アピールでもある。また、犯行を強調するということは即ち犯人が自分そのものを強調しているという事になる。その強調は見事なまでに噂となり、恐怖へと化ける。犯人はそれを望んでいたという事になり、犯人の願望は実現したということになるな。とどのつまり、彼はあらゆる方法を使って自分の存在を世に知らしめたいと言う願望を心の奥底に持っていることになる。動機の先が何なのかは神のみぞ知ると言う奴だがな』  「んで、二つ目は?」  『簡単だ。隠蔽しやすい人間を奴は選んでいるのさ。そして、そのうってつけの人間を探す便利な物がこの世にはある』  「なんだそれ?」  『それはだな』  神妙な顔つきになる赤羽。今か今かと彼の返事を待ち続ける。何秒か待ち、長いタメにイライラと苛立ちが積もる。本条は未だに言う気配がない、早く言えと叫ぼうとした時、赤羽は一つの事に気付いた。 回線が切れていた。  一方、本条はと言うとだ。  「小銭が切れたな」  小銭が切れていた。
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