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【対峙】
僕は、比較的後方から、視界に入る人々に多少なりとも安心しながら、その姿を眺めていた。
そして、彼……"だったモノ"と僕の間にも、それでも数人は居たはずだった。
というのに、間に阻むそんな人の存在が、意識から消失してしまったかのように、それは鮮明に……
いや、確かに遮られていたというのに、その色だけで景色が補われ……浮かび上がった。
この瞳に映されたのは、そう、"あかい"花びらが舞い散るような……
……違う、
それは“美しい”と思って良いものではない。
僕等にとって、例えばそれは……痛み、恐怖、危険の象徴。
あれは真っ赤な――“血”であると。
少し前に、傍らで、違和感のある微風と共に低い音が横切り、
そして、そのすぐ後……どこか遠い場所で、似たような、短く、これもまた低い音がこぼれた気がした。
これも違う。
それ程、遠い場所ではない。
更には、後者の低音は、
前者のように"無機質"なものではなく――
“人”とはこのような“声”を発することもできるのだと……。
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