喧嘩

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彼女の最も過ぎる指摘で俺は呆けていると 「……ぷ」 次の瞬間、彼女は大笑いし始めた。 「アーハハハハ! ばっかねぇ! くふふふふ! まさか、全然気付きもしなかったの!? アッハハハハハ!」 その見事な笑いっぷりに、俺は閉口するしかなかった。 数分間笑った後、仰向けに転がった。 「あー、可笑しかった。こんなに笑ったの久しぶりよ。というか、笑うこと自体が久しぶりか」 その言葉に俺は少し耳を疑った。 こんなに怒鳴り合える奴なのに、最近は笑っていなかった? こんなに感情豊かな奴が? しかし、よくよく考えればこいつは自殺願望者なんだっけ。 「なぁ」 「なによ」 「マジで、名前なんていうんだ?」 「強盗犯のクセに、人質の名前がそんなに知りたいの?」 「まぁな」 本当は自殺したい理由を尋ねたかったが、それは今じゃなくてもいいだろう。 彼女はニッと笑いながら名前を言った。 「……カヨイ イクトよ」 「はぁ? 女なのにイクト?」 「最近の親は変な名前を付けたがるのよ」 「へぇ…。あれ本当だったのか」 「ちなみに、漢字ではこう書くわ」 彼女は上半身を起こし、ポケットから携帯電話を取り出して素早くボタンを何度か押して俺に見せた。 目が暗順応していたため、少しの間目を細めるがすぐに慣れてきた。 携帯電話のが画面にはこういう文字が映されていた。 『通行人』 「明らかに偽名じゃねぇか!」 「アハハ! 冗談よ」
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