喧嘩

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「本当の名前はこっちよ」 彼女は再び携帯電話を弄り始めた。 そして、先ほどと同様に俺に画面を見せる。 「阿久津真沙美か」 「そ。あんたは?」 「俺は長岡淳。長いに岡山県、淳はジュンとも言うやつ。三水の付く…」 すると、真沙美はこれっと訊きながら携帯電話を見せる。 そこには『長岡淳』と映されていた。 「あぁ、その字だ。それじゃあ、真沙美。さっきの部屋まで戻ろう。屋上だと寝ている間に雨でも降られたら困るし」 「む……。まぁ、仕方ないか」 俺は立ち上がり、真沙美に手を差し出した。 真沙美は少し驚いていたが、俺の手を掴んだ。 「ん?」 この時、俺は気付いた。 「お前、何でそんな手袋を嵌めてるんだ?」 その指摘に、真沙美は慌てて手を離し、顔を逸らした。 「別に何だっていいでしょ! ただのファッションよ!」 真沙美は明らかに不機嫌な声となった。 「先に行くわよ!」 真沙美は逃げるような足取りで歩みを進め、屋上から姿を消した。 俺はというと、どうしても疑いが拭えていなかった。 あいつの態度の変化もだが、それだけではない。 ファッション? 真沙美が嵌めていた手袋はファッションとは程遠い手袋―‐… 手術用のゴム手袋だった。
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