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お年玉の使い道は決めていた。
大きな模造紙を買った。
それを庭いっぱいに広げた。
青と白の絵の具を買った。
それを紙いっぱいに広げた。
そのうえに寝転んだ。
腕をいっぱいに広げた。
小学2年の冬、俺は空を飛んだ――。
ような気がした。
服が汚れて怒られた。
だけど気にならなかった。
俺は馬鹿ではなかったから本当に飛べるなんて端から思ってはなかった。ほんの少し、気分くらいはもしかしてと思っていただけだった。
でも、おしかったんだ。
想像以上におしかったんだ。
あと一歩だったんだ。
絵にはそれだけの力がある、可能性があるのだと知った。
それから、俺は絵を描き始めた。
俺には翼はなかったけれど変わりに手があった。
そして筆を持つことができた。
俺の翼は筆だった。
高校に入学して1年。進級してしばらく。俺は馬鹿にあった。
真っすぐで、前しか見えない本物の羨ましい程の馬鹿。
数年後、そいつの為に俺は、
また大きな模造紙を買った。
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