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2度の夏をこえ、僕は最後の大会へ臨んだ。
少し緊張した。
僕は、大学へは進学しない。企業で走るなんて事もしない。
終われば引退。最後の走り。
変な自信もあった。
僕はこの会場で一番足が早い。なんて事はない。
でも、空に1番近いのは僕だ。なんて。
アップをして時間になったら召集。前の2組が走り、スタート位置につく。
ふーっと息をゆっくり吐いた。いや、正確には吐こうとした。途中で息が詰まった。
僕の目はグラウンドの端で青くて大きい何かを持つ人を写した。久しぶりの、しかしよく知っている顔だった。
距離があるのに表情までよくわかった、企みを成功させた時の意地の悪そうな満面の笑み。
呆気にとられるも、すぐにスターティンググロックに足を置く。
用意。
質の良くない拡声器の声。
いち、に……。
パーン――
火薬のニオイに背を押され、僕は青いそれに向かって走った。
「どうだった?」
後ろから、かけられた声。
久しぶり。とか挨拶の類は一切無しに、卒業以来の先輩の声。
「自己ベスト、更新しました。まあ全国には行けませんけど」
「そうじゃねぇよ、わかってんだろ。
俺は飛んだ。間違いなく飛んだぜ!」
「僕も。僕も飛びました。
青かった。空、青かった
です」
振り返って顔を見れば先輩は満面の笑顔。
多分僕も。
「空飛んでそんな感想かよ。まあいいか。で、お前どうする?」
「へ?」
「俺は次は宇宙に行く。お前は?」
「は!?えっと……
僕も行こうかな…」
「棒高跳びでも始めるか?」
「馬鹿にしてますか?」
「少し」
……。
「…そういえば、ソレどうやって持ってきたんですか?」
僕は、目で丸められた茣蓙のようなソレをさした。
「決まってるだろ
電車と徒歩」
予想通りで僕は吹き出した。その後、あははははと腹を抱えて笑った。
仰いだ空は高かった。
僕は、いや僕等はあそこに行ったんだ――。
end.
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