僕、いる

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みんな知らないらしい。 僕の事。 自分でも確かに影は薄いかなって思う。 その前に、影になるような物さえ無いから 僕、透明じゃなかったんだ。 でもある日、お母さんが僕を呼ぶ声がする。僕は目の前にいるのにね。お母さんはふざけてるのかなって思ったよ。 でも、お母さんは本気だった。本当に寂しかったよ。お父さんも毎日探し回ってたけど、もちろん見つけることは出来なかった。 だって、僕はいつでもお父さんとお母さんのそばにいたんだもん。 お母さんにだっこしてもらうのが大好きで、お父さんと一緒にキャッチボールするのが大好きで、あのおっきなカサカサの手で頭をグシャグシャにしてもらうのが大好きで・・・ でも、それはしてもらえなかくなった。いつの日か、お母さんの膝は、知らない弟に奪われていた。あのカサカサの手も、知らない弟に奪われた。 お母さんは、僕の写真を見て泣くことも、抱きしめる事も、何もかもしなくなった。 お父さんは、僕のグローブを見て、手入れする事も、触る事も無くなった。 僕の居場所と存在は、きっとどこにも無くなったんだ。 ここに無断で居座る事も、いけないんだ。 だから家を出た。眠っているお母さんとお父さんにちゃんと、行ってきます、って伝えた。 僕の部屋で眠る弟の寝顔は、何だか憎たらしかったので、とりあえず抓っておいた。 行ってきます。 そう言ってみた。帰ってくる日はくるのかな。またここに帰ってきたとき、みんな笑顔で迎えてくれるかな? 寂しくて、辛くて、痛くて、寒い日がやって来たとき、僕は、僕は、どうすればいいの? 暖かいお母さんの膝、お父さんの手の平、弟の憎たらしいけど柔らかくて暖かい頬、いつか僕を暖めてくれたらいいな。 ううん、暖めてくれなくたってやっぱりいいや。 みんな、見えていなくても、僕を忘れないでね。 僕がここで生きていた事、存在があったこと、忘れないでね。 あの弟にも、お前は長男じゃないんだから調子に乗るんじゃないぞって言っておいてね。 みんなさよなら。   さよなら。 さよなら…。  
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