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住宅街を縫うように、乾いた風が吹いた。
カラカラと音を立てて旅立つ木の葉は、どことなく哀愁を漂わせている。
そんな些細な光景が、僕にとっては新鮮だった。
「おーい、雪深。引っ越しの荷物はまだいっぱいあるぞ。サボってないで手伝いなさい」
野太い声が僕を呼んだ。
深く息を吸って、同様に深く息をはき、僕は大きな声で返した。
「はーい。わかってるよ、父さん」
僕、大塚雪深は父の転勤により、急遽引っ越しをすることになった。
やっと馴染み始めた学校に別れを告げる暇なく、無理矢理に連れてこられ、現在にいたる。
今に始まったことではないので、少しは納得しているが、それでも学校に別れぐらいは告げたかったというのが素直な心境。
勿論、僕の両親はそんなこと全然、全く、毛頭、気にしてないわけだが。
「雪深、そのダンボールの中は食器だから、あんまり乱暴に持っていくなよー」
入社試験受けたての社員という感じがぷんぷんする短い黒髪を、爽やかに朝日に照らしながら荷物を運ぶ父さん。
やれやれ、息子の心境を欠片ほどでいいから理解して欲しいものだ。
「雪深ー?」
「わかってるよ、父さん」
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