住み始める街

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「グズグズしてないで早く運びなさい。そんなことでは生きていけないぞ」  生きていけてるよ。  ガチャガチャと音を立てる重たいダンボールを、ため息全開で新居に運ぶ。  見下すように屹立する三階建ての我が家が妙に苛立たしい。  ドスドスと荒げた足音を立てながら家に入った。  ピカピカのフローリングに湿り気でうっすらと足跡ができる。 「あら、雪深」  玄関を入ってすぐにあるドアから、母さんがひょっこりと顔を出してきた。 「母さん。台所ってどこ?」 「ん、台所?」 「そう」 「私がいる部屋がリビング。その奥に台所があるわ。こっち」  案内してくれるのか、母さんはセミロングの黒髪を靡かせながら、颯爽とドアの向こうに消えた。  その後に続いて、僕も部屋に入った。 「おぉ、広い」  なにも置いてないからか、リビングは異様に広く感じる。 「雪深、こっちこっち」  奥を見ると、台所の前で手招きをする母さんがいた。  さっきはドアで隠れていて服装がわからなかったが、エプロンを装着している。  主婦の正装なのだろうか。 「ダンボール置いて。中身は食器でしょ?」 「うん」 「母さんが片付けるから、雪深は父さんと一緒にドンドン荷物持ってきて」 「はーい」
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