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「どうしたカヅキ、そんな可愛く見つめてきて。父さんどうすればいいんだ」
カヅキの視線に気付いて、父親は照れながらそんなセリフをはいてきた。
「…………いや、なんもしなくていいすから」
重い重い疲労感を覚えて、思わずガックリと肩を落としてしまう。
現実ってば辛すぎます。
「しっかしそれにしたってさ」
「どうした?」
改めてカヅキはまわりを見渡し、ため息をつく。
なにせこの学園ってば、寮の内装からしてこんななので、
「俺、最初この学校に着いたとき城かと思った」
「ははは凄いだろ」
「いや、凄い通り越して、ぶっちゃけありえねーんだけど」
得意げに父親は笑っているが、正直本当にありえない。
夢のような現実ってこういう事を言うのだろう。
ここは、カヅキが今まで暮らしてきた場所とはかけ離れ過ぎているから。
「お前と母さんには、苦労をかけた。金の力でどうこうする気はないし、お前がこの学園に本当に愛想がつきたら辞めたって構わない。ただ…」
「………」
ついさっきまで笑っていた父親は、急に真面目な顔になった。
どこだかしんみりした空気に、カヅキは少し嫌悪にも似た感情をもった。
別に今まで居なくて、ひょっこり帰ってきたこの父親を恨む気はさらさらない。
だからというべきか。
今の空気は苦手だ。さっきの疲れる空気の方がまだましだったのに。
「今まで父親らしい事なんか一つもやってこなかったそんな男の、これが最後のわがままだ。お前の高校を卒業するまでの成長を見守りたい」
「いや、いいけど…さ、あーでも」
「でも?」
「俺があんたの息子だとか、そういうのは秘密の方向で。俺はフツーにここで学園生活おくるから、干渉も無しで」
「ああ、わかってる」
頷く父親にひとまず安心。
でも、自分で言っといてなんだが、こんな所で「普通」の学園生活なんて送れるのだろうか。
少しだけ不安。
ああ、未来ってなんで見えないのかしら……
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