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「月って、お前みたいだよな」
「……突然なに?」
隣で歩く彼が、そんなことを口走る。降ってきた右手が私の髪を撫でる。
満天の星空に浮かぶ金色の月が優しく私達を照らしていて、だから彼はそんなことを言ったのかもしれない。
「いやさ、太陽に比べると小さいし、丸っこくて可愛いじゃん」
「馬鹿にしてる?」
「いやいや滅相もない」
悪びれずに笑う彼の手を退かし、私はさっさと歩き出す。不愉快な訳では無くて、こうすると彼が慌てて追い掛けてくるから。
そんな子供みたいな彼が、私は好きだった。
「おい、待てって」
「何か言うことは?」
「……悪かったって。でもさ、俺本当にそう思ってるぜ?」
「丸っこくて可愛いって?」
「本気にするなよ。ったく、可愛いヤツだな」
道端なのにも関わらず、彼は後ろから抱き付いてきた。いくら人がいない夜道だと言え、恥ずかしい。
でも、暖かくて強い腕に包まれると、心地好かった。彼の匂いがする。安心する。
「こら、やめなさい。変態」
「変態でもいいから、もう少しこのままがいいな」
「……馬鹿」
いつも彼は、こんな顔から火が出そうな台詞で私を惑わす。とてもじゃないが、私はそんな事を言えない。
そんな私に不満一つ漏らさず、彼はいつも側にいてくれる。たまに眩しすぎて嫌になる時もある。でも、やっぱり一緒に居たくなるのは何故だろう。
おんぶするような形で、暗い夜道をひた歩く。彼の重さは感じられず、暖かさだけが背中に残る。
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