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「私が月なら、アンタは太陽ね」
「ん?」
「だって大きいし、いつも眩しい。アンタが眩しいから、私も少しは輝ける」
彼が居なければ、私は有象無象の一つだ。彼が居なければ、私は何の価値もない一つの存在だ。
太陽の無い月なんて、ただの薄暗い天体。誰にも必要とされない、美しくも何ともない惑星。
それは決して私が美人だとかそういうことじゃなくて、とにかく私には太陽が必要ということだ。
しかし彼はそんな私の意見を笑い飛ばし、絡めた腕に力を込めた。少し苦しい。
「俺は太陽なんて柄じゃない。強いて言えば、地球かな」
「地球?」
「そう、地球」
私の背中に寄り掛かりながら、彼は私の顔の横で声を出す。息が耳にかかって、少しくすぐったい。
「地球はさ、月の引力が無いと死んじゃうんだぜ? 前どっかで聞いた話」
歩みを止めて、振り返る。彼は顔を私の肩に埋めていたから、どんな表情をしているのか解らなかった。
「わかるだろ? お前がいなきゃ、俺は生きていけない。お前は輝かなくてもいいから、俺の側に居てくれ」
懇願するような、甘えた声。こんな姿は初めて見たから動揺したけど、同時に酷く愛しくなった。
私達は想い合っているのだと、好き合っているのだと。それは心に響き渡った。
首に絡まっていた腕を外し、しっかりと向き直る。俯いていた彼が不安そうな顔を覗かせたから、ついつい私も大胆になる。
彼の頬に私の唇が触れる。彼は驚いて目を開いたが、私は恥ずかしくて顔を逸らした。
「それが答えよ」
頭がふわふわする。身体に熱が走る。恥ずかしくて死んでしまいそう。でも、彼が笑うから私も笑った。
これが幸せって事なのかな?
END
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