妻にありがとうと言ってみた

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 春の麗らかな陽射しが和室に澄み通り、目に痛くない明るさが私を照らした。僅かに開かれた小窓から聞こえる物音を探す。  鳥の声。子供の声。車の声。風の声……。どれも元気よく鳴っているように思えた。  私は一人では起き上がることすら容易ではない。だからその声に交ざりたくとも交ざれない。  それは酷くもどかしい。寂しい。だが、不思議なもので、少しだけ幸せを感じたりもするのだ。  空気に溶け込んだ彼等の幸せが、私にも伝染しているのかもしれない。  風に開眼を促されるように、私は重たい目蓋を持ち上げた。直接に視神経を刺すような目映さが心地良い。  天井を眺めていると、宙を舞う白い粒を見付けた。ふわり、ふわりと、どこへ行くでもなく私の周囲を漂っている。 「あら、起きてらしたんですね」  開かれた襖から妻が声を掛けてきた。手には食器、恐らく私の朝食であろうものが乗せられている。  良い匂いだ。 「日が気持ち良いな」 「ええ、風も強くないし。お洗濯を済ませてしまおうかしら」  妻は嬉しそうに笑いながら、私のベッドを挙上させた。近頃の技術は素晴らしいもので、ボタン一つで体位変換ができる。  私には出来ないが、妻が簡単で助かると言うから、私も少し救われる。 .
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