第一章『学生達の夜』

5/5
前へ
/236ページ
次へ
「皆さん、お疲れさまで……ってなんですか!? いったい!?」 その絶叫とも呼べる質問に対し、床にぶっ倒れている庵(いおり)が応じる。 「功実(いさみ)ちゃん、世の中、聞いても良いことと悪いことがあるんだよ……これは聞いちゃあダメな方だよ!」 向こうには、鼻血を垂らしながら起き上がろうとしている隊長。 そして、最早起き上がる力さえ残っていないのか、仰向けで倒れたまま何かを悟ったような顔をしている副隊長。 軽く惨劇レベルのドッグ内に、ちょっと泣きそうになっているのは、オペレーターの山口 功実(やまぐち いさみ)。 少し茶色がかった髪をツインテール状にまとめた、外見は小学生位の可愛らしい少女。 だが、年齢は御幸(みゆき)達と大して変わらない。 そんな功実を見た興戸(こうど)は、 「あなたがここへ来たのなら、それなりの理由があったのでは無いですか?」 「あ、いえ、特に用事があった訳では……暇だったもので」 その答えを聞いた瞬間、……ほぉ、と興戸が黒いオーラを出して功実に近付いて行く。 「ヒッ!」 小さい悲鳴を上げる功実は、興戸を避けるルートを走り、やっと立ち上がった御幸の背後に、サッと隠れる。 それで驚いたのは御幸の方だ。 「は? いや、このパターンは……!」 そこまで叫んだ御幸が、次に何かしらのアクションを取る前に、興戸のハイキックが、再びの顔面にめり込む。 「ブッ、グアッ!! ……ふっ……だが……俺は功実を守っ……!」 そんな事を言いながら、崩れ落ちる御幸。 その刹那、彼は目撃した。 自らの背後に、誰も居ない事に。 そう、御幸が蹴られる前に、既に功実は逃げていたのだ。 膝から床に倒れ込んだ瞬間、御幸は思う。 (……グッジョブ、俺) 心の柱が崩れ落ちる音を聞きながら、御幸の意思は薄れて行く。
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加