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風を斬る振動、目の前に広がる晴天。
これらがあれば、この搭乗席の乗り心地を差し引いても十分に快適と言える物と言えるだろう。
雲の更に上を飛ぶ試作戦闘機『Walker』の狭いコックピットで、彼はそう思う。
『Walker』のフォルムはいたってシンプル。
一般人が戦闘機を思い浮かべたら、大分『Walker』に近くなると言える。
理由は単純。
(期待はされてない……か)
あくまでも試作機。余計な予算は注ぎ込めない。
そんなことを考えながら操縦桿を握っていると、ふざけたような声がコックピット内を満たす。
『あってんしょんぷり~ず? そろそろ作戦目標だし、編隊組んだらトイレ行かね?』
友軍機……いや、馬鹿からの通信だ。
彼の機体の横では、同型の逆三角型の翼を持つ水色の友軍機が四機、既に前へ出て攻撃ポジションについていた。
機体のカラーリングのせいか、背景の青空と同化している様にも見える。
そこでまた、
『こちらオペレーター、作戦空域まであと三十秒』
と、今度は幼そうな声が告げる。
『うおォォお! 俺はその声だけで十分ミッションクリアですよ?』
そう叫んでいるのは先程のふざけた声の主。
その声が流れた途端、通信機器から複数のため息が漏れる。
そこで彼は、ヘルメットと同化しているマイクに向かい。
「あ~そうか、よかったなー。だがここで無線封鎖だ、残念だな」
適当に言うと、ギャースカと叫ぶ同僚を無視して無線封鎖をかける。
これで緊急回線以外での通信は出来なくなった。
不意に、心臓の鼓動が速くなって行く。
だが、ここで引く訳にはいかない。
(……こればっかりは慣れないね)
一度深呼吸をすると、太陽を直視しない様にバイザーを下げ、ヘルメットの中で呪文の様に呟く。
「一二一五、現時刻を持って、スカイウォーカー隊はミッションを開始する」
言い切ると同時、操縦桿を倒す。
すると、目の前の晴天が上昇し、視界から失せかと思うと、その代わりに硝煙漂う対空放火の雨に変わる。
晴天よりも、こちらの方が当たり前とでも言う様に。
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