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直後、先程よりも巨大な重量が全身を圧迫する。
それはパイロットスーツの許容量を遥かに超え、超過分の重圧を体中へダイレクトに叩き込んで来る。
眼球が飛び出るかと思った。
血を吐く所だった。
意識が飛びかけた。
だが、それら全てを堪え、押さえ込む。
旋回を完了した時には、既に敵機はロックオン済み。
後はトリガーを引き、旋回の完了していない敵機のケツにミサイルをぶち込めば、それで勝利だ。
(本当につまらない)
そう彼は思った。
トリガーを引けば、遥か遠くで爆発が起こり、敵は死に自分は生きる。
技量ではなく、性能が重視されるこの時代。
自分は、パイロットは、ただのパーツでしか無いのだ。
付け替え可能な、ただのパーツ。
技術など、関係無い。
一定のマニュアルを熟せば誰だって乗れる。
ならば自分がここに居る理由なんて、有りはしない。
隊長と言う肩書も、殆ど意味など持たない。
ふと、彼の視界に黒い煙りが見えて取れた。
先程打ち落とした機体から発せられているのだろう。
パイロットには逃げる時間を与えなかった。
恐らく愛機と共に木っ端みじんになった筈だ。
人の命が、トリガー一つで、指先一つで決まってしまうのが、戦争。
殺せば殺す程、偉く成れる矛盾。
不合理な事柄が合理化されるのが戦争。
必死に機体を振り回し、こちらのロックを外そうと躍起になる敵を眺めながら、彼は呟く。
「……生きるって、なんだろな」
トリガーに添える指先に、不意に力が篭った。
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