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いきなりだった。
本当にいきなりだった。
そう、始まりはいつも突然なんだ。
智美
「今日からお世話になるとこの主人よ」
今まで親の手ひとつで俺を育ててくれた母さん。
その母さんが今、さらっと大変なことを言ってきた。
男
「おや、きみが智美のお子さんかい?
確か…ゆうや君だったかな? 今日からよろしく」
そして母さんの隣にいる体格のいい男が、俺に馴れ馴れしく話しかけてくる。
悠哉
「あ、はぁ……これはどうも」
とりあえず社交辞令といて一礼は返しておくが、だ…誰なんだこいつは…。
俺の母さんの名前を呼び捨てで呼んでる…。
いや…まさか……なあ…。
最近母さんは綺麗になったと思う。
バリバリのキャリアウーマンだった母さん。
休みの日でも、机に向かいコーヒーをすすりながら仕事の書類に目を通す母さん。
そんな母さんが、最近はよく出かけるようになった。
悠哉
「まじでかぁ…」
予想はしてたんだ。
いつかこんな日が来るんじゃないかって。
だけど、こんな急だとは思わなかったんだ。
だから思考がついていけない。
智美
「悠哉?」
悠哉
「うん? 聞いてるよ」
俺は父さんの顔を知らない。
‘忘れた’ではなくて‘知らない’んだ。
たぶん、産まれた時からいないんだろう。
小さい頃母さんに聞いたことあるけど、あやふやな言い回しをされたような覚えがある。
それ以来、父さんの話は一度も聞いていない。
聞かなくてもいいことだと理解したからだ。
だから俺は『俺のお父さんは一人だけだ!』なんて反対する理由もない。
けれどこういうのって、やっぱりなのか、なんだか納得いかないもんだなぁ…と心の中で呟く。
智美
「あ、あのね悠哉。黙っててごめ」
悠哉
「おめでとう、母さん」
俺の中で一番許せないことは、いままで女手ひとつで俺を育ててくれた…俺を愛してくれた母さんを困らせること。
この話を反対すれば、最後に後悔するのはきっと俺だ。
悠哉
「でも、もっと早く言ってくれてもよかったのに。俺は、反対なんかしないよ」
俺は、母さんが幸せになれるこの話を喜んで受け入れる。
智美
「悠哉…。ありがとう」
悠哉
「へへ」
新しい父さん
「さて、お互いの挨拶もすんだところで、家族の紹介をするとしよう」
悠哉
「え…?」
他にも家族がいるのか?
智美
「私も初めて会うのよね」
悠哉
「まじでかぁ…」
おじいちゃんとか、おばあちゃんとか?
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