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新しい父さん
「さあ、入ってくれ。
もう準備はしてあるんだ」
そう言ってこの男の人は玄関の扉を開け、俺たちを中に導いてくれる。
でもその前に、ひとつ聞かなきゃならないことがある。
悠哉
「あ…あの」
新しい父さん
「ん? なんだい」
悠哉
「名前、教えてもらえませんか?」
新しい父さん
「どうしてだい?」
悠哉
「いきなり‘父さん’て呼ぶのは、なんだか抵抗があります」
新しい父さん
「ははは。正直でいいな。
私は慶治(けいじ)だ」
悠哉
「慶治…さん」
強そうな名前だな…。
慶治
「私からもひとついいかい?」
悠哉
「は、はい」
慶治
「敬語は禁止だ。いいな?」
悠哉
「え…?」
慶治
「家族間で敬語を使うのは、おかしいと思わないかい?」
悠哉
「あ…はい…」
たしかに変だよな。
だけどそれは一般家庭での話だ。
悠哉
「で、でもそれは…」
慶治
「禁止だ。いいか?」
悠哉
「ぅ゛…はい、あ、うん」
この渋い顔で、真面目な顔されてちょっと強めに言われると、すこし恐ろしいものがある…。
智美
「ふふ」
慶治
「よし、じゃあ入ろう。
中でみんなが待っている」
悠哉
「おじゃましまーす…」
智美
「おじゃましますっ」
恐る恐る脚を踏み入れると、綺麗に靴が並べられた玄関に入る。
悠哉
「まじかぁ…」
さっそく驚かされた。
玄関が…すごく広いんだ。
俺が住んでる家は、マンションなんだけど、そのマンションの玄関の2倍…いや3倍近くの大きさ。
ここに布団を敷いて寝ても、若干スペーズが余るくらいだ。
…まあ、家の大きさからして、普通なんだろうけどね。
ここに来た時はどこかのパーティーに招待されたのかと思ったくらいだし。
母さんは、いったいどこでこの人と知り合ったんだろうか…。
慶治
「さ、こっちだ」
悠哉
「はあ…」
案内されるがまま、廊下を進んでいく。
あんまり人様の家の中をきょろきょろ見渡すのはよくないことだと思うけれど、見ちゃうよな…これ。
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