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水をかけられた
しかも冬の冷たい水。
寝起きの苛立ちと共に驚きが混じりつつ、目を開けた。
目の前には不良のような男が見下ろしていた。辺りを見るとコンクリートの地面であり、どうやら店の裏らしい。
「ここは喫茶店なんだよ!てめぇみたいなクソガキが寝る場所じゃねぇ!」
「…」
罵声を浴びされ、しかも濡れた服が体にまとわりついている。訳も分からず沈黙するが涙が出てくる。
突然胸ぐらをつかまれ、さらに大声で怒鳴られた。
「てめぇこの店で寝たらどうなるかわかっててやってたのか!?迷惑なんだよ!」
「す、すいません…。」
恐怖で声が裏返り、ろくなことも言えない。喉は震えて、小動物のような目で男を見上げる。
「仕方ねぇ、きちんと体で払って貰うぞ。」
強引にブラウスの襟をつかまれ、引きずられるように裏口から入っていく。由利には、今が朝か夜かさえ確かめる余裕がなかった。
(私何をされるの…)
不安と恐怖を抱きながら二階への階段を登って行く。男はある部屋の前まで来たところで止まり、大声を上げた。
「おい新二!!起きろ!!」
ビクリと身体中に電気が走ったような気分になり、同時に濡れた服から来る寒さで鳥肌が立った。
突然ドアが開き、昨日の店員の顔が現れた。
「何だよ兄貴…近所迷惑だろ…」
寝起きで物凄く不機嫌そうな顔の新二が出てきた。まさに今起きたばかりのようで、寝癖がひどい。
「俺の方が迷惑だ!なんだこのクソガキ…」
「お客さんだよ…。なんでびしょ濡れなんだよ…まさか兄貴!」
「悪いか?営業妨害されてんだよこっちは。」
「まず謝れよ」
「いいんです…」
兄弟の喧嘩を挟むようにやっと口があいた。
「そうだ、やっと分かったかガキ」
「その言い方は止めろよ」
「分かったよ…。おい、女。ここで働いて償え。そしたら許す。」
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