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「そういえばこの店の名前は?」
「決まってない。実は、養父が決めないまま死んでしまったんだ…。だから無名だ。」
「決めないの…?」
「決めようにも名前が浮かばない…」
新二は少し悲しげに言った。
「もともと養父は体が弱かったらしい。だから俺らを見届ける事が出来ないのは分かってたんだと思う。それでも、自分がいつ死ぬか解らないのに俺らを育ててくれた。そんな養父の店の名前を勝手につけられない…」
「…」
「まぁ、それはいいだろう。取りあえず中に入ろう。」
と新二は由利の肩を叩いた。
由利は新二が時々見せる悲しげな顔が気になっていた。朝食の時も、浩一が自分に話しかけている一方で、新二はそういう顔をしていた。
新二の隣で皿を拭きながらそんな事を考えていた。一方、新二はコーヒーを淹れる機械を整備している。
突然、「チリン」という鈴の音がなり、扉が開く。そこには40代くらいの女性の姿があった。「お久しぶりね新二君。」
「いらっしゃい、2ヶ月ぶりですね。」
「あら、この子は…新二君の彼女?」
由利は急に顔が赤くなり、体温が一気に上がったような気分になった。一方で新二は何の変化もなく、寧ろ笑顔で答えた。
「そうですよ。」
「違うでしょ、バイトの子でしょうに」
「あ、バレました?」
興奮状態の由利には話など耳に入ってなかった。
(私、新二さんの彼女に見えたのかなぁ、そんな、私なんかが彼女だなんて…)
「…、貴女名前は?」
「は、はい!市橋由利です!」
「由利、お前緊張し過ぎだって…」
冷静な新二から見れば興奮状態の由利は挙動不審だった。
新二は由利を小突き、注文を聞くように伝えた。
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