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鉱山の村アルビア。
別名「工房村」
山脈の麓に位置するこの村は豊かな鉱山資源に恵まれ、工房での武具生産が村の主な収入源となっていた。
しかし、鉱山が閉鎖された今となっては当時の活気は消え失せ、見る影も無い。
そんな村の、朝霧も晴れない中で、青年は村長の家へと足を運んだ。
「村長、お話があります」
「……やはり…行くのか…」
村長と呼ばれた男は体格の良い、まだ三十代中頃のようであった。
「ジャン、確かに私は親父の後を継いで村長になった。だからと言ってお前が親父の夢を追いかけなくてもいいじゃないか」
ジャンと呼ばれた青年はゆっくり口を開く。
「違うよ兄さん。俺は別に親父の夢を追いかけようとは思ってない」
「だったら……」
「俺は見極めたいんだ。一人の職人として、最強の武器とは何なのかを…」
一時の沈黙が流れる。
「…なら行ってこい。ただし、やる事やってから帰って来るんだぞ」
「ありがとう、兄さん」
「全く…譲らないのは、親父にそっくりだな…」
村長は溜め息混じりに言った。
「…じゃあ、行くね」
ジャンは踵を返して村の出口の方を向いた。
「ジャン!」
村長はジャンを呼び止め、拳ほどある大きさの袋を投げ渡した。
「餞別だ、持っていけ」
ずっしり重たいそれには飛竜の刻まれた金貨が詰まっていた。
「村はいつでも此処にある。親父が愛した村だ。…必ず、帰ってこい」
「…ありがとう」
そして村を出たジャンは広大な世界に足を踏み入れた。
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